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とある蕎麦屋店主との会話

おいしいごはん
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私は飲食店の方とおしゃべりをするのが好きです。一人でお店に行くと、なんやかんや話しかけてもらえることも多いので、孤独のグルメごっこはやめられません。今日はそんなある日の会話について、日記がわりに綴ります。

7月某日。

知人の果樹園で美味しいブラックベリーを摘んだあと、傷みやすい果実を保冷バッグにしっかり詰めて、どこに行こうかな〜と里山の風景をドライブしていたとき、ふと思い出したお蕎麦屋さんがありました。

いつやってるかわからない、口コミはとても良い、どうやら趣味で営業している?と思われるお蕎麦屋さんの噂を聞き、いつか行ってみたいなと思っていたのです。

そうだ、たしかこの近くにあったはずだと、街をだいぶ離れ、畑や田んぼの中を車でくねくね、ひた走りました。

ナビに従い、こんな場所に、お店あるのかな〜?と思うような狭い道をずいずいと入っていきます。

そして、ようやくお蕎麦屋さんらしき建物を見つけ、あった〜!と一人安堵しましたが、ほっとするのはまだ早い。

お店の看板なし、暖簾も出ていない。だれもいない駐車場に車を停めながら、お店の入り口にじっと目を凝らしました。

開いているのか???

そう、お店が開いているかどうかは、行ってみないとわからないお店なのです。

電話番号は完全非公開、お休みの曜日固定なしの完全不定休。

かろうじて、入り口付近にある小さな木札に「営業中」と書かれていました。

営業中・・・!

営業中だぞ、やった〜!!

心の中で叫びました。ずっと行きたいと思っていたお蕎麦屋さんに辿り着けた喜び(おおげさ笑)

平日ということもあってか、お客が誰もいない閑散っぷりと、それでも私は今、ずっと訪れたかったお店の前に立っている、というシチュエーションに、本当に入ってもいいのだろうか?と、一瞬だけためらいました。

しかし!

なにしろ、自他ともに認める「蕎麦通」または「蕎麦マニア」として、友人知人の間で名を馳せている私(?)。

この怪しげな里山の名店に、「営業中」と書かれた札を見てしまった今となっては、入らないわけにはまいりません。

心のふんどしを締め直し、いざ、入店!!

「いらっしゃい」

奥から坊主頭の店主が声をかけてくれます。

お、意外とお若い方が店主さんなのですね。

趣味でやっているような店だという口コミを見たので、引退したおじさんがやっているのかなと、勝手に想像していましたが、どうやらそうでもないらしい。

店主は頭のバンダナを巻き直しながら、

「うちはエアコンないけどいいのか〜、今日みたいな日はつらいぞ〜」

と独り言のように確認(?)してくれましたが、無論、エアコンの有無など無問題であります。

じとーっと汗をかきながら、冷たいお蕎麦をズズっと啜って、喉越しさっぱりの感触とともに、颯爽と店を後にしようではありませんか。

うまい蕎麦を前に、余計な会話など無粋。

静かに蕎麦を啜って、蕎麦湯でほんのり余韻をあじわったら、脱いだシャツを肩に引っ掛けて、粋に立ち去るのみです。

大きな窓から外の見える席に座り、窓から里山の景色を眺めます。

畑の緑が太陽に照らされ、まぶしく光っています。そして軒下には、梅が干してありました。

きれいに並べられた梅が畑の風景に溶け込みながら、よく陽の当たる軒先で、そよ風を受けて佇んでいました。いいなぁ、自家製の梅干しかぁ。


十割蕎麦を注文し、店主が手際よく作り始める音を聴きながら、店内を何とはなしに眺めていると、Queenのポスターが目に入りました。

それは、映画「ボヘミアン・ラプソディー」のポスターなどではなく、昔からの根っからのファンでないと、おそらく手に入らないのではと思われるような、ちょっとレトロ感のあるポスターでした。


おぉ、私と音楽の好みが合うかも。

店内は音楽もラジオもない、大変静かな無音空間でしたが、オフの時間には激しいロックなども聴いていらっしゃるのでしょうか。

お蕎麦が到着しました。

通常のお蕎麦やさんより、量は控えめかもですが、このくらいの量が私の好みです。

大盛りもない、天ぷらや枝豆などのサイドメニューもありません。

もっと食べたければ、二枚目のお蕎麦を注文するしかありません。口コミにも、二枚目のお蕎麦を食したという記述がいくつか散見されました。

しかし私はこの日、それほど空腹ではなかったので、お蕎麦は一枚で帰ろうと決めていました。

それまで見たこともないのに、ずっと恋焦がれていた蕎麦。


まずは、お蕎麦を1本、何もつけずにいただきました。
これは蕎麦通だったじいさんから受け継いだ食し方です。

その後、蕎麦つゆにちょこんとつけて。

そして、その後は、わさび、ネギ、と薬味を追加し、味を楽しみました。

あぁ・・・

これほどうまい蕎麦を、どこで食べたことがあるだろう・・・

思い出せないほど、うまい。

おおげさだけど、今まで食べた蕎麦の中でいちばんうまいんじゃないかと思うほどにうまい。

蕎麦つゆも、文句なくうまい。控えめに言っても、べらぼうにうまい。めんつゆがこんなにうまいと思ったことがあるか。いや、ない。

いつも私が使っている八方だしは、家でうどんや蕎麦を食すときには美味しいが、このお店の味には及ばない。


蕎麦の量が少なめだから、つゆが余ってしまう。もったいない。

これは二枚目を食べるしかないんじゃないか?

入店前に、今日は蕎麦一枚だけと思っていた決心が揺らぎ、

も、もう一枚くらい、いけるんじゃないか??

という気がしてきました。

蕎麦湯をいただきながら、メニューをみると、今しがた食した十割蕎麦のほかに、田舎蕎麦もあります。

田舎蕎麦も、食べてみたいなぁ。

店主が何らかの話を振ってきたら、おしゃべりついでに蕎麦の話を聞き、その流れでもう一枚、蕎麦を注文してみようか。

しかし、店主は厨房に引っ込み、話し掛けてくる様子がまったくありません。

しーんと鎮まりかえった店内で、蕎麦つゆに蕎麦湯を注ぎ足し、静かに飲み干すと、残っているのは塩だけ。

そう、蕎麦には、塩もついていたのです。

天ぷらがついているわけではないので、この塩は、お蕎麦に使うのです。塩で蕎麦を食すというわけです。

ちょっと辛い塩でした。これはなんの辛さだろうなぁ。色は抹茶のようなんだけど、抹茶塩でもなさそうだし、うーん。

蕎麦をつけて食べても、塩は余ったので、箸にちょんちょんとつけて、塩だけ食べながら、そして塩と外の景色を交互に眺めながら、店主が厨房から出てくるのを待つとはなしに待っていました。

うーん。

店主、いらっしゃいませんね。。。

そういえば、蕎麦を食べたら颯爽と店を出るつもりじゃなかったのか、私。

今日はこのへんで切り上げるとするか。一度ご縁あって入店できたのだから、きっとまた来ることもできよう。

「ごちそうさまでした」と厨房に声をかけると、

「はい、どうも」

店主がどこからか出てきました。

ここから、ようやく会話が始まりました。



店主「どこからですか」

私「〇〇市から。この近くで知人がブラックベリーを作ってるので、さっき摘んできたんですよ」

店主「ブラックベリーは美味しいよね」

おぉ、ブラックベリーをご存知の方とは、お珍しい。ブラックベリーは傷みやすいので、なかなか生の果実が流通していない貴重な品種なのです。


私「そうなんですよ。おいしいですよね」

店主「うん、あれは北米原産でね」

(そうそう、よくご存知で!)

店主「ここの畑でもブラックベリーを植えて、作ってたことあるけど、美味しくできなくて、やめちゃった。気候のせいもあるのかなぁ」

そっか、知人の畑では、アメリカ・アーカンソー州のパテント品種を育てていて、あまり手間がかからず、虫もつかないから、育てやすいと話していたけれど、やはり美味しいものをつくるのは、大変なんだなぁ。


店主「おじさん、アラスカのほうにいたことあるからさ。うまいのは、ブラックベリーとリスだね」

リス???

リス、リス、リス・・・。

素早く脳内を回転させてみても、リスという食べ物が思い出せない。リスというベリーの品種があるのだろうか。

私「リスってなんですか?」

店主「リスはリスだよ」

リス、リス、・・・。

・・・。


リスって、・・・まさか、あの小動物のリス???

私「リスを、食べるんですか?」

店主「うん、だって、おいしいよ」

調べてみると、リス肉というのがあり、イギリスやアメリカではリスを食べるそう。日本でも、アイヌ民族の伝統料理として食べられていたそうです。漫画「ゴールデンカムイ」にも登場するとか(今度読んでみよっと。)


そっかぁ。

帰りがけ、あの塩はなんで辛いのか聞いたところ、「わさび塩」だったそうです。

緑色の塩のところどころに、黄色い小さなつぶつぶも入っていたのですが、それは玄米粉だとか。


なるほどー。

店主「今の時期、蕎麦おいしくないからさ、彼岸過ぎたらまた来なよ」

えっ・・・?

一瞬、聞き間違いかと思いました。おいしくないって、店主のお蕎麦がですか・・・??

ちょっと、謙遜しすぎでは・・・。どこよりも美味しかったですよ。

店主「今日の十割蕎麦は、ギリギリだね」

ギリギリ?さきほどのお蕎麦がですか?

店主「これからもっと不味くなる。8月はもっとダメ。暑くなるから。8月はもっと安くする。新蕎麦が出てきたときは、不味いからね。うまいのは、彼岸すぎ。10月は美味しい」

新蕎麦がまずいなんて、聞いたことなかったけど、いろいろ調べてみると、出始めの新そばは、美味しくないという記事も見つけました。



なんとも情報量の多い話になってきましたが、さきほどの店主のお話からすると、蕎麦の値段は、変動制ということがわかりました。

観光シーズンや、お蕎麦のおいしい季節(この土地の観光シーズンと重なる)になると、お蕎麦の値段を上げるのだとか。

私「そういえば、お店が休みの日を確認したいときは、どうすればいいですか?」

店主「休みは決まってないんだよね。うちは電話も非公開。おじさんの体調にもよるし。毎年お客さんが来た日の統計をとっているけど、去年の7月も少なかったね」

どうやら、統計をとって、お店を開ける日を調整しているようです。

近くに来たときに、お店が開いていたら、立ち寄る。

そういうスタイルのお蕎麦やさんなのです。「営業中」だったらラッキーです。



店主が自分を「おじさん」と話し、ここを訪れるお客の中でも私のことを「若いほう」と言ってくださったので、第一印象で店主を「意外と若い」と思った私も、なんだかおじさまに見えてきました。スキンヘッドの若者かなと思いましたが、つるつるヘアのおじさんだったのか(どうでもいい)

体調がよかったらお店を開ける、なんだかなぁという日は、ゆっくり寝て休む(かどうかはわかりませんが)、今後もこのスタイルを貫き、くれぐれもご無理をなさらず、ぜひとも長く続けていただきたいお蕎麦やさんです。



店主に再訪を誓い、太陽の照りつける中、灼熱の車に乗り込んで、店をあとにしました。

里山の自然は、夏に向けて色鮮やかにほとばしり、持てる生命の力を無邪気にみせつけてくれるものです。この地を訪れると、私はいつも木々や草花、畑や田園風景に癒されています。

自然をより近くに感じるため、車の窓は全開に。
なんとも爽快な余韻のまま、帰路についたのでした。

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あ、そういえば、Queenの話をすればよかったなぁ。

ま、いいか。また来るし。

呑珠庵様、お蕎麦をありがとうございました。大変おいしゅうございました。

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